フィールドトリップの報告。

etorofu2005-06-28

6月21日火曜日、Prey Veng Provinceのある村へSamaki Komar II(サマキ2)というプロジェクトの視察のため日帰りの出張に行ってきました。以下では、プロジェクトの概要と簡単な視察の記録、感想および考察をカンボジアの教育の現状を織り交ぜつつ書かせていただきます。ちなみに僕は教育に関してはほぼ素人に近く、バックグラウンドはこの一ヶ月間カンボジアで蓄積された知識のみです。同じく素人の方にもわかりやすく書いたつもりですので是非読んでください。
意見、質問、詰問大歓迎。


Samaki Komar II / CARE International
サマキ2はCARE International*1という国際NGOが取り組む女子教育のプロジェクトで、その目的は女子の教育へのアクセス向上のための家庭/コミュニティ/学校環境の改善である。プロジェクトを通しての期待される結果は、(1)ステークホルダー(コミュニティーメンバー、教師、コミューン委員会メンバー)間で女子教育への理解を深めること、(2)女子のNon-formalおよびFormal教育へのアクセスを向上させること、(3)参加型アプローチを採用したプロジェクト活動によって持続的な女子教育サポートのための制度的枠組みを改善すること、の4つ。

その実現のための主な活動は、(1)ワークショップの開催や(2)奨学金プログラムおよび(3)Non-formal教育プログラムの実施、(4)ステークホルダーのキャパシティを高めるための参加型アプローチの採用、(5)コミューンの開発投資プランを通した行政とコミュニティの連携強化などである。期間は04年10月から06年12月の2年2ヶ月で予算は$410,000*2

今回の視察ではCAREの活動の(3)と(4)に当たるNon-Formalの識字教育学校の年度末ミーティングを見学させてもらった。


女子のためのNon-Formal識字教育
ミーティングの話に入る前に少し「女子のためのNon-Formal識字教育」の定義と背景について説明しようと思う。まず、Non-Formal教育とは何か。その名の通りFormalでない教育のことであり、何らかの原因で学校に行けない子供たち、もしくはドロップアウトしてしまった子供たちに代替的*3な教育を受けさせる上で途上国では重要な教育部門である。カンボジアにおける小学校就学率*4は90年の70.2%から2000年の85.4%と飛躍的な向上を見せているが、都市・地方間*5格差、つまりプノンペンとそれ以外の地方との差が依然として大きい。またドロップアウトする生徒の割合が高く5年生の時点で残っている生徒は入学時の45%(全国平均)、特にサマキ2対象地域では卒業率が1割に満たないところも多い。このことからFormalの枠からはみ出してしまった子供たちを対象とするNon-Formal教育はカンボジアにおいて非常に重要な役割を担っているといえる。

ではなぜ‘女子’教育なのか。その理由は単純に、女子は男子に比べ社会的に弱い立場におかれており、教育の享受によるコスト&ベネフィットの効率*6、またその重要性が男子に比べ格段に大きいからである。例えばカンボジア教育省の統計*7によると、カンボジア人の男女11歳から18歳のSEX経験者のうちSEXを強要されたことのある割合は、男子では「学校に通っている子」の0%、「学校に通っていない/通えない子」の2%で、女子では「学校に通っている子」の0%、「学校に通っていない/通えない子」の53.8%となる*8。このデータから「学校に通っていない/通えない女子」が性的虐待の被害者となる確率が高いことが言えそうであり*9、またその他の局面でもこれに近い結果が確認されている。

ここでの共通理解は、「最低限の教育を受けていない市民は問題対処能力が低く、基本的人権を行使することが困難である。」ということ。例えば、簡単な社会の構造を理解していなければ村の川が工場の排水で汚染されたとき誰に訴えればいいのかわからない。算数ができなければ市場でだまされるかもしれない。プノンペンにさえ行けば何とかなると思って結局売春をすることになるかも知れない。サマキ2などの地方におけるNon-formal教育の目的は、教育による女性の社会進出の促進だとか職場での地位向上、収入を保障する職業スキルの提供などではなく(これらを含む場合ももちろんあるが)、第一義的に、生きるために自分の身を守る最低限の知識と論理的思考を身につけるということなのである。



取り敢えずここまででアップします。本題のミーティングは明日以降ね。

つかれたー。

*1:この業界ではメジャーで運営もしっかりしている。正規職員としてここで働くには院卒プラス3~5年の関連分野での職務経験を求められる。もちろん僕なんかは相手にされない。

*2:JICAからです。JICA相変わらずスゲー金出す。担当者に予算の割り当て聞くの忘れました。

*3:Formal教育への復帰を目的としている場合や、識字教育などの最低限レベルのもの、職業訓練をするものまで多種多様。職業訓練の場合はVocational Trainingと呼ばれることが多い。

*4:UNESCO 2005. EFA Global Monitoring Report

*5:都市人口は全人口のわずか15%。

*6:同じ水一杯でも喉が潤ってる人にあげるのと脱水症状で死にそうな人にあげるのとを比べると、脱水症状の人にあげる水一杯の方が価値があるというロジック。似たようなロジックで女子教育は経済的にも効率がよいとされる。つまり、女子教育による女性の社会進出はこれまで途上国の労働市場が期待していなかった女性の労働力を生み出し、新たな経済効果(政府の税収など)をもたらすというもの。カンボジアのように徴税システムが整備されていなかったり、経済の循環そのものがうまくいっていない国家においてはその効果のほどは不明。

*7:Ministry of Education Youth and Sports, Dep. of Pedagogical Research with the support of UNICEF and UNESCO Phnom Penh 2004. Cambodia National Youth Risk Behavior Survey

*8:この男女差は当たり前といえば当たり前だが、こんなに当たり前のように男女差はある。

*9:カイ二乗検定の数値が掲載されていませんでした。