ちょっとした旅行記。

昨年末に書いたやつ。
ちなみに下の内容とこの本(未読)は何の関係もないです。

スーダン

スーダン

 DCに行った帰りに乗せてもらったタクシードライバーとのエピソードです。疲れていたので道中寝てもよかったのだけれど、そのドライバーがとにかく紳士的な人で、また珍しくスーダンから来たというので興味持って色々と話をしてみたわけです。彼は今40歳くらいで、数年前スーダンに家族を置いて単身渡米したそう。初めはどのラジオ局がいいだとか他愛ない話をしていたのですが、僕がスーダン軍事独裁について尋ねたところから話題は政治に移りました。初めは正直、彼に対して中身の濃い話は期待していませんでした。出稼ぎに来た途上国のおじさんに過ぎないと思ったからです。


 しかし驚いたことに彼の話の内容は深く、自分の国のことはもちろん、中東情勢からアメリカの政策、日本と他のアジア諸国の歴史的問題に至るまでかなり正確に理解していました。特に中東問題とアメリカの政策に関する知識には恐るべきものがあって、詳細な歴史や周辺事情、CIAの中東における暗躍など、おおよそチョムスキー(彼はチョムスキーを知らない)なんかがこれまで言及してきた程度のことは全て知っているようでした。彼はムスリムなのですが、ただ単にシオニズムを否定してパレスチナの肩を持つというわけでもなく、異民族の共生を願うリベラルな考えも持ち合わせていました。


 スーダンで大学を卒業した彼の専攻は何とビジネス。これは日本やアメリカなどではかなり考えにくいことです。おおよそ大学で関係のある学問でも勉強していない限り、ここまで深い政治的知識を得ることはできません。ほとんどの場合、「何となくややこしい過去があるらしいね」くらいが関の山でしょう。この事実を率直に彼に話して、アルジャジーラのおかげ?なんて馬鹿な質問をしてみたところ、「アルジャジーラは俺からすれば情報がクリアーだとはとても言えないし、頼りにならない。」と。そしてさらに、「俺たちスーダン人はとにかく知ることに対して貪欲なんだ。昔はよくこう言ったもんさ、『あらゆる本はカイロで書かれ、レバノンで刷られ、スーダンで読まれる。』、今の軍事独裁下のスーダンでは、そうも行かないけどね、、。」。


 将来、お金を作ったら家族を呼び寄せるのかと聞くと、「そうしたい。でも俺がこの先、金を儲けられるとは思わない。この国では最初の一年目で成功できなかった移民はその後も一生無理なんだ。」。911以降、彼をとりまく環境は一層厳しくなったそうです。典型的なムスリムの顔と名前を持つからでしょう。


 とにかく僕はスーダンの人とこんなに真剣に話をしたのは初めてで、とても嬉しく、また彼の方も、「こんなにちゃんと話ができたのは君が初めてだ。」とすごく喜んでくれました。これで終わってしまうのがあまりに勿体なくて、帰りがけに名前とメールアドレスを交換して別れました。彼とは絶対に再会したいと思います。

・・・とまあアツく語ってしまいましたが、実はこのエピソードの直前、本場のB-BOYの方々に襲われかけてたんすね。後ろからいきなりタックルですわ。まあ全力疾走で逃げたんで何ともなかったんですけど、その後こんなイイ体験できたら、そりゃあ感動もしますわな。