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>nagataくん
この前少し話した村上龍のMLです。

以下、2006年1月2日版から抜粋。



 

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■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第356回目】
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====質問:村上龍============================================================

Q:643
 2005年、株価は上昇を続けました。この傾向は2006年も続くのでしょうか。

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■ 山崎元  :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員

 マーケットの先行きの問題なので、確かなことは言えませんが、株価は、上昇を続
ける公算が大きい「ような気がします」。

 理由を述べる前に、一つ勘違いしやすい部分について注記しておきます。現在の日経平均の1万6千円程度の水準は、日経平均の最高値38950円(89年年末)の半分に遠く及びませんが、TOPIXで見ると、89年12月末は2881.37ポイントで、現在が(29日木曜日終値で)1663.75なので、現在は89年末に対して57.74%です。日経平均の最高値にこの比率を掛けると、約22500円になります。日経平均を基準とした感覚で言うと「今の相場は、まだ1万6千円なのではなく、もう2万2千円」なのです。

 この原因は、2000年4月の日経平均の銘柄入れ替えによって、銘柄入れ替えの際に少なくとも当時の2万円程度の日経平均で2千数百円の市況全体の上下には関係ない下ズレが起こったことと、その時に日経平均に採用された値嵩(「ねがさ」。株価の高い)の電気などの銘柄の株価の動きががその後冴えなかったことによるものです。この時の銘柄入れ替えでは、指数の計算内容の51.4%が一気に入れ替わりましたが、この入れ替えによって、日経平均には前後に大きな非連続性が発生しており、長期間の株価の動きを見る上で、日経平均は使い物にならなくなっています(この問題に関連する記事が「週刊エコノミスト」1月10日号に載っています。p96、「旧基準なら既に2万2千円」米澤忍、です)。

 ところが、私も含めて、株価の水準を見るときには、つい日経平均を見てしまいますし、日経平均のレベルに対して何らかのイメージを持ちがちです。1万6千円台の日経平均といえば、1986年くらいのバブルの立ち上がりの時期の水準であり、つい、あの頃のイメージで、「2万円までは早かった」とか「現在はバブルであるかもしれないが、まだ前半だ」といったイメージを持ってしまいます。しかし、実際には、現在の株価水準は、日経平均で考えると、もう2万2千円台位まで戻っているのだ、と感覚を修正しておく必要がありそうです。

 本題に戻って、私が、株価が当面上昇を続ける「ような気がする」といういうことの具体的な根拠は、突き詰めて考えると、最近株価が上昇しており、この傾向が急には変わらないように思える、という単なるトレンド延長的な予想形成です。

 もちろん、商売用にこの種のことを言う場合には、1)日銀短観を見ても、一致指数を見ても、景気が当面好調で、今冬のボーナスも昨年よりも増えるなど企業の利益が消費にも波及しつつあること(従って、企業の利益にとってプラスの環境であること)、2)目下金利は低く、量的緩和はまだしばらく続き少なくとも短期金利は人為的にゼロに抑えられること(従って、債券などの資産と較べて株式は有利で、投資・投機の資金コストが安いこと)、3)市場に参加する投資家・投資資金が増えており投資家が株式に要求するリスクプレミアムが低下していること、などをもっともらしく付け加えることになりますが、はっきり言って、1)も2)も3)も、皆が知っていることです。

 理屈上は、「皆が知っていること」は既に現在の株価に反映していると考えることが自然ですから、これらを理由に「株価が上昇する」と予想する(厳密には金利プラスリスクプレミアム以上に上昇すると予想する)ことは、利口ではありませんし、これだけでは根拠を欠いていると考えるべきでしょう。

 ここで根拠を呈示できる可能性があるとすると、「株価水準が不当に安いのが修正される」と言える場合でしょうが、PER(今期予想ベース)で約23倍、PBRで2.3倍(何れも東証一部全銘柄)という水準は、「普通だが、やや高い」(これは私の主観的な判断ですが)といえるくらいのものであって、安い株価の修正、という理由はもう使えません。

 自己分析を続けて、敢えて本音をバラすと、現在の市場の雰囲気は、ある種のバブル的な楽観が拡大しつつあるように見えて、これは1980年代末や2000年の過去のバブルとの比較で言うと、もう少し続きそうに思える、というこれも「経験から来る、感じ」が理由になって、「株価はまだ高い」と言いたい気分になっているということです。

 予想形成を一種の意思決定問題として捉えると、論理的に確率を考えて期待値を求めるようなやり方よりも、最近の傾向の延長や、過去の事例との類似性に影響されて判断を行いがちだということが(かなり情けないけれども)分かります。意思決定の理論で言うと、前者は期待効用理論(EUT)に近く、後者は事例(case)ベース意思決定理論(CBDT)と言われるものに近いと思います。市場参加者としては、本来はEUT的でなければならないのですが、どうしてもCBDT的な方向に傾き勝ちです。

 仮に、上記に述べたような「感じ」から来る(実は根拠の乏しい)強気予想を持つ人が市場に多いとすると、現在の株価は「買いが、買いを呼ぶ」的なポジティブ・フィードバックの下に形成されている可能性があり、これ以上の急速な(年率1割を超えるような)株価上昇はバブル的なものだと考えることができるでしょう。つまり、予想としては、現在の傾向がまだ続きそうに思えるものの(単に「思える」だけです)投資にあたっての株価水準については、そろそろ警戒域に入ったということが言えそうです。

 投資家に対する具体的な行動指針としては、「PER20倍、PBR2倍」という辺りが「まあまあの株価水準」の典型でしょうから、二つの要素を折衷して、BPS(一株株主資本)に予想EPS(一株利益)の10倍を足して求めた数字よりも株価が高い場合は、余程の理由がなければ、その銘柄を買わない、というくらいの株価水準に対する判断基準を持つといいと思います。

              経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元

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